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山陽電気鉄道
本 社所在地
神戸市長 田区御屋敷通3丁目1番1号
設 立年月日
1933 (昭和8)年6月6日
資 本金
100億 9,029万158円 (2013年3月末現在)
公 式webサイト
http://www.sanyo-railway.co.jp/index.html
目  次
1.姫路都市圏と山陽電鉄
2.山陽電鉄の1日当たり乗車人員 数の推移
3.山陽電鉄主要駅におけるJR西 日本との競争

山陽姫路駅に停車する阪神梅田行き直通特急 2012.2

飾磨線が分岐する飾磨駅 2012.2

1.姫路都市圏と山陽電鉄  
 山陽電鉄は、準大手民鉄≠ナある。同じ兵庫県内に営業基盤を持つ神戸電鉄も、かつては準大手民鉄≠ノ位置付けられていた。しかし輸送量の減少に伴 い、格下げ≠フ憂き目に遭い今や普通の民鉄≠ナある。そういった意味では山陽電鉄も将来、格下げに遭う可能性がありそうだ。それくらい近年、輸送量が 落ち込んでいる。

 山陽電鉄は、主に神戸と姫路を結ぶ鉄道であるが、神戸高速鉄道を介して阪神電鉄と相互乗り入れを行っており、対大阪までの輸送も当然志向している。しか し 並行するJR西日本の東海道・山陽本線には、俊足を誇る「新快速」が終日頻繁運転をしていて、姫路〜神戸・大阪間の輸送では山陽電鉄が極めて不利な立場に 追い込まれている。準大手民鉄の地位を山陽電鉄が脅かされている(?)のも、まさに新快速との競争に敗北したことによるものだ。

 拙web「都市と民鉄」では、7大都市(東京、横浜、大阪、名古屋、大阪、京都、神戸)の大手民鉄よりも、地方中枢都市と地方中核都市における民鉄に着目したいという 目的で作られている。そのため山陽電鉄についても、敢えて姫路都市圏≠ノおけるという切り口にしてみた。とは言っても、姫路都市圏が神戸都市圏(及び大 阪都市圏)に強い影響を受けている以上は、対神戸・大阪の輸送についても触れないわけにはいくまい。と言うよりも、結果的にはその分析が大部分を占めるこ とになってしまうだ ろう。

 さて、まずは山陽電鉄沿線自治体の人口推移を纏めておく。

1985 年10月
1990 年10月
1995 年10月
2000 年10月
2005 年10月
2010 年10月
神 戸市長田区
148,590
136,884
96,807
105,464
103,791
101,624
神 戸市須磨区
181,966
188,119
176,507
174,056
171,628
167,475
神 戸市垂水区
224,212
235,254
240,203
226,230
222,729
220,411
明 石市
263,363
270,722
287,606
293,117
291,027
290,959
播 磨町
29,757
30,813
33,583
33,766
33,545
33,183
加 古川市
227,311
239,803
260,567
266,170
266,937
267,100
姫 路市
452,917
454,360
470,986
478,309
482,304
485,992
※合併前の旧市域の人口
(総務省『国勢調査』より作成)


 神戸市長田区は、1995(平7)年1月に発生した阪神・淡路大震災による被害が特に著しく、人口が大きく減少した。神戸市須磨区、神戸市垂水区、明石 市、播磨町も近年は微減傾向にあり、山陽電鉄にとってはJR西日本との競争が激化する中でパイが縮小していくという状況であり厳しい。加古川市や姫路市は 微増傾向にあるが、山陽電鉄沿線だけでなくJR沿線で増加している分も当然あると思われるので、どの程度山陽電鉄の利用者増加に寄与することが期待できる かは不透明である。



2.山陽電鉄の1日当たり乗車人員数の 推移  
 山陽電鉄の山陽須磨〜山陽明石間は、完全にJR山陽本線と並行している。そのため特にこの区間は利用者がJR線へシフトしており、乗車人員の少ない駅が 多い。1日当たり乗車人員数が1,000人未満の駅がゴロゴロしているという状況は、準大手民鉄≠ニいう位置付けからしてみるとちょっと異常な感を拭え ない。

 一方、明石以西の姫路寄りはJR山陽本線と比較的離れたルートをとっていることもあって、神戸寄りよりも乗車人員が多い傾向にあり山陽電鉄の収益基盤が 現在は山陽 明石〜山陽姫路間にあることが窺える。

■山陽電鉄本線各駅の1日当たり乗車人員の推移
駅  名
営 業`
停 車す る特急列車
1970年度
1980年度
1985年度
1990年度
1996 年度
2000 年度
2005 年度
2010 年度
2015 年度
2017年度
(高 速神戸)
3.5
阪 特 S特 直特 特 15,773
21,384
17,912
17,151
19,981
17,803
15,688
13,701
15,344
16,049
(高 速長田)
0.9
阪 特 S特 直特 特 17,104
19,310
18,575
15,630
10,929
9,740
8,737
7,986
8,710
9,655
西 代
0.0
阪 特 S特 直特 特
3,425
2,180
1,964
1,814
1,233
1,205
1,044
1,134
1,052
1,077
板 宿
1.0
阪 特 S特 直特 特 19,194
21,721
18,512
16,967
13,521
12,005
11,540
11,167
11,348
11,614
東須磨
1.8
阪 特 −− 直特 −
6,102
5,839
5,011
4,219
3,142
2,671
2,022
1,668
1,764
1,770
月 見山
2.6
阪 特 S特 直特 特 6,613
7,776
7,068
6,397
4,518
3,742
3,173
2,414
2,849
2,962
須磨寺
3.3
阪 特 −− 直特 − 2,281
3,470
3,159
1,940
1,488
1,164
945
904
940
893
山 陽須磨
3.7
阪 特 S特 直特 特 6,276
4,739
4,112
4,184
2,778
2,362
2,025
1,751
1,784
1,792
須 磨浦公園
5.1
阪 特 −− −− −
1,364
1,385
1,156
858
710
518
416
378
405
447
山 陽塩屋
6.8
     −− −− − 4,363
2,648
1,940
1,723
1,016
1,060
789
762
775
770
滝 の茶屋
7.8
     S特 直特 −
8,896
6,880
5,581
4,863
4,164
3,449
3,030
2,775
2,737
2,740
東 垂水
8.6
     −− −− − 1,860
1,925
1,378
945
710
630
526
534
633
690
山 陽垂水
9.6
     S特 直特 特 11,536
10,849
9,929
9,055
7,167
6,175
5,441
5,112
5,603
5,683
霞ヶ丘
10.7
     S特 −− − 2,586
2,585
2,441
1,885
1,625
1,403
825
805
967
1,011
舞 子公園
11.5
     −− 直特 特
1,944
1,790
1,551
1,247
970
1,351
1,611
1,992
2,399
2,479
西 舞子
12.4
     −− −− − 3,505
2,475
2,238
1,775
1,490
1,115
926
885
959
1,033
大 蔵谷
14.3
     −− −− − 2,616
2,356
1,932
1,748
1,373
1,309
1,147
1,123
1,087
1,167
人 丸前
14.9
     −− −− − 2,003
1,641
1,156
1,071
803
780
676
673
702
742
山 陽明石
15.7
     S特 直特 特 25,416
18,690
17,350
17,707
21,477
16,701
14,800
14,328
14,040
15,011
西 新町
16.9
     −− −− − 3,953
3,732
2,789
2,468
2,756
2,323
1,882
1,920
2,227
2,540
松 崎松江海岸
18.4
     −− −− − 4,230
3,866
2,879
3,359
3,540
3,035
2,712
2,610
2,661
2,838
藤 江
20.4
     S特 −− − 2,899
2,488
2,016
1,912
1,786
1,547
1,400
1,495
1,617
1,762
中 八木
21.8
     −− −− − 1,852
1,529
1,696
1,808
1,520
1,224
1,068
1,293
1,467
1,658
江 井ヶ島
23.5
     −− −− − 3,512
2,332
1,830
1,890
2,140
1,972
1,917
2,008
2,270
2,422
西 江井ヶ島
24.9
     −− −− − 1,805
2,121
1,721
1,586
1,893
1,649
1,583
1,701
1,626
1,666
山 陽魚住
25.6
     −− −− − 1,255
893
1,016
1,093
1,101
1,035
1,065
1,145
1,241
1,332
東 二見
27.3
     S特 直特 特 6,652
7,022
6,732
7,033
6,718
5,690
4,126
4,131
4,232
4,389
西 二見
28.6
     S特 −− −





1,668
2,290
2,672
2,825
播 磨町
29.9
     S特 −− − 不 明
不 明
不 明
不 明
不 明
不 明
2,558
2,597
2,432
2,526
別 府
32.2
     S特 −− − 3,633
3,436
3,567
4,282
3,047
3,289
2,973
3,281
4,579
4,734
浜 の宮
34.1
     S特 −− − 2,241
2,471
2,373
2,411
2,485
1,847
1,608
1,811
2,464
2,490
尾 上の松
35.5
     S特 −− − 967
2,008
1,847
1,984
2,197
1,547
1,381
1,494
2,027
2,129
高 砂
37.3
     S特 直特 特 不 明
6,164
6,342
6,093
5,419
4,449
3,832
3,572
3,437
3,249
荒 井
38.5
     S特 直特  不 明
3,586
3,408
3,066
3,852
3,487
3,783
5,720
6,112
6,490
伊 保
39.7
     S特 −− − 不 明
2,290
1,964
1,833
1,792
1,668
1,339
1,380
1,434
1,477
山 陽曽根
41.3
     S特 −− − 不 明
3,036
2,756
2,756
2,696
2,224
1,789
1,772
1,751
1,808
大 塩
42.8
     S特 直特 特 3,828
3,641
3,015
3,182
3,124
2,618
2,362
2,691
2,569
2,606
的 形
44.2
     S特 −− − 2,054
1,822
1,553
1,351
1,221
1,168
1,050
1,029
1,032
1,016
八 家
46.2
     S特 −− − 2,623
2,274
1,951
1,798
2,054
1,774
1,340
1,345
1,455
1,490
白 浜の宮
47.6
     S特 直特  3,996
3,108
2,543
2,427
2,953
2,519
2,185
2,744
3,051
3,119
妻鹿
49.0
     S特 −− − 4,039
3,014
2,160
1,922
1,728
1,452
1,218
1,368
1,302
1,317
飾 磨
50.9
     S特 直特 特 10,810
7,494
6,804
6,073
5,929
4,732
4,294
4,224
4,502
4,670
亀 山
52.3
     S特 −− − 2,231
1,914
1,283
1,233
1,053
1,079
1,044
1,054
1,151
1,210
手 柄
53.4
     S特 −− − 2,118
2,257
1,128
1,079
1,009
961
863
808
908
987
山 陽姫路
54.7
     S特 直特 特 35,865
23,966
23,873
21,675
18,998
15,529
13,480
13,238
14,168
14,540
駅  名
営 業` 停 車する特急 列車 1970年度
1980年度
1985年度
1990年度
1996 年度
2000 年度
2005 年度
2010 年度
2015 年度
2017年度
(各自治体の統計書より作成、1995年度は阪神大震災の影響が大きいため1996年度を採用)



3.山陽電鉄主要駅におけるJR西日本 との競争  

新快速に対抗する阪神梅田行き直通特急  2012.2飾磨駅

スピードで山陽電鉄を圧倒するJR西日本の新快速 2012.2加古川駅

 山陽電鉄は、神戸〜姫路間で概ねJR山陽本線と並行しているが、特に山陽須磨〜山陽明石間と山陽姫路駅では山陽電鉄とJR山陽本線の駅が隣接し、直接的 な競合関係にあると言える。
 そこで山陽須磨(JRは須磨、以下同)、山陽塩屋(塩屋)、山陽垂水(垂水)、舞子公園(舞子)、山陽明石(明石)、山陽姫路(姫路)の各駅について、 山陽電鉄とJRの1日当たり乗車人員数を比較してみる。

■山陽電鉄本線主要駅及び競合するJR山陽本線の駅の1日当たり乗車人員数の比較

山 陽須磨
  須 磨 
山 陽塩屋
  塩 屋 
山 陽垂水
  垂 水 
舞 子公園
  舞 子 
山 陽明石
  明 石 
山 陽姫路
  姫 路 
1970 年度
6,276

4,363

11,536

1,944

25,416

35,865

1980 年度
4,739

2,648

10,849

1,790

18,690

23,966

1990 年度
4,184
13,630
1,723
7,920
9,055
37,458
1,247
15,808
17,707
45,803
21,675
47,790
1996 年度
2,778
12,937
1,016
7,628
7,167
40,815
970
16,383
21,477
58,987
18,998
52,118
2000 年度
2,362
12,739
1,060
6,932
6,175
37,280
1,351
20,336
16,701 53,485
15,529 47,552
2005 年度
2,025 12,680
789 6,682
5,441 34,680
1,611 20,655
14,800 52,036
13,480 45,929
2011 年度
1,751 12,349
710 6,972
5,101 34,377
2,044 20,352
14,174 51,674
13,277 46,423
2017 年度
1,792

770

5,683

2,479

15,011

14,540

(各自治体の統計書より作成)

 このように山陽電鉄とJR山陽本線の駅の利用者には極めて大きな差がついてしまっている。特に1995年1月に発生した阪神・淡路大震災によって阪神間 のJR西日本と民鉄各社の鉄道網が寸断されたが、より早く復旧したJR西日本に民鉄各社の利用客が流れ、そして移行したまま定着したことによってこれら民 鉄線に乗り入れていた山陽電鉄の利用者も大きく減少してしまったようだ。

 そのような原因もあって、現在では健全な競争が行われているというよりも、JR西日本が山陽電鉄 を圧倒している状況が乗車人員数の比較だけからでもよく分か る。では、このような苦しい状況にまで陥ってしまった背景について、山陽明石駅(JR明石駅)と山陽姫路駅(JR姫路駅)をピックアッ プして、対大阪、対神戸の山陽電鉄とJRの競合関係の現状を纏めてみよう。尚、JR西日本の最短所要時間は新幹線を使わない場合(=新快速利用)である。
  ■明石〜大阪間の山陽電鉄とJRの比較

営業キロ
最短所要時 間
運 賃
備  考
山 陽電鉄
梅 田(阪神)〜
山陽明石:52.8km
58分
(直通特急)
890円
表定速度:60.0km/h
JR 西日本
大 阪(JR)〜
明石:52.5km
37 分
(新快速)
890 円
表 定速度:85.1km/h
  ■明石〜神戸間の山陽電鉄とJRの比較

営業キロ
最短所要時 間
運 賃
備  考
山 陽電鉄
三 宮(阪神)〜
山陽明石:21.6km
28分
(直通特急)
580 円
表定速度: 46.3km/h
JR 西日本
三 ノ宮(JR)〜
明石:21.9km
17 分
(新快速)
380 円
表 定速度:77.3km/h
 明石〜大阪間では、運賃は同額なのだが残念なが ら所要時間で20分以上山陽電鉄が遅く、明石〜神戸間に関しては山陽電鉄が高 くて遅い≠ニいう絶望的な 状況である。

  ■姫路〜大阪間の山陽電鉄とJRの比較

営業キロ
最 短所要時間
運  賃
備  考
山 陽電鉄
梅 田(阪神)〜
山陽姫路:91.8km
89分
(直通特急)
1,250 円
表定速度: 61.2km/h
JR 西日本
大 阪(JR)〜
姫路:87.9km
61 分
(新快速)
1,450 円
表 定速度:86.5km/h
  ■姫路〜神戸間の山陽電鉄とJRの比較

営業キロ
最 短所要時間
運  賃
備  考
山 陽電鉄
三 宮(阪神)〜
山陽姫路:60.6km
59分
(直通特急)
940 円
表定速度: 61.6km/h
JR 西日本
三 ノ宮(JR)〜
姫路:57.3km
41 分
(新快速)
950 円
表 定速度:83.9km/h
 姫路〜大阪間は、JRは200円ほど山陽電鉄より高くなるが30分近く所要時間は短く、この時間差による優位性は200円程度の価格差では揺るぎそうも ない。姫路〜神戸間の場合では10円まで価格差が縮まるため、一層スピードの速いJR西日本に有利になる。

 山陽電鉄の特急は決して鈍足というわけではない。最高速度は110km/hで、明石〜山陽姫路間の一部ではスピード感溢れる走行をする区間もある。もし 山陽電鉄が地方中枢都市クラスの民鉄として存在していれば、間違いなくJR線を脅かせる利便性や快適性を持つ特急と言えるだろう。しかしJRの新快速があ まりにも速すぎるため、山陽電鉄がとてつもなく遅いイメージになってしまっているのが不運である。更にはそれに輪をかけて神戸高速鉄道線内で時間調整した りするので遅くなるし、運賃も通し計算されず割高になっているのである。この神戸高速鉄道が介在することによる弊害は、あまりに語り尽くされてきた感があ るので、これ以上筆者が発言する必要性を感じないが、深刻な問題であることは間違いない。


【参考文献】
鶴 通孝「負けるな!直特」『鉄道ジャーナル』通巻第418号、2001年所収
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